空の色をおしえて
わたしは大量の汗をかきながら何とか駅まで辿り着くと、ロータリーにいるタクシーに乗り込んだ。
静かに、行き先を告げる。
運転手が不審そうな表情でバックミラーをチラチラと見ていたが、何も声をかけてはこなかった。
声をかけることも憚られるほど、ひどい姿ということだろう。
商店街の明かりはもうほとんど消えて、辺りは薄暗かった。
あの夜、この道を訳もわからず自転車の後ろに乗せられて駆け抜けた。
急な坂を、秋人の背中の温もりを感じながら下っていったんだ。
恥ずかしくて言えなかったけど、本当はあの時、何か素敵なことが起こる予感がして、すごく胸がときめいたんだ。
そのまま、誰も知らない遠い場所に連れ去ってくれればいいのにって、本気で思った。
何もかも捨てても、
秋人さえ側にいてくれれば幸せだと、本気で思ったんだ。
まぶたを閉じれば、まるで昨日のことみたいに思い出せるのに……今はすべてが違ってしまっている。