明日、君を好きになる


カフェを出てから、自宅まで、いくつか幹線道路の渋滞にハマったものの、午後5時過ぎには自宅に到着。

車から降りると、夏の終わりを告げる虫たちの合唱が響き渡る中、運転席側に廻る。

『送ってくれてありがとうございました。今日は渚ちゃんが無理言って、すみません』
『別に無理じゃないよ。今日はこれから深夜のバーだけだしね。これくらいのことなら、いつでも言って』
『ありがとうございます』
『ただ…その代わりと言ったら、なんだけど』

開け放たれた運転席の窓枠に片腕をかけてこちらを見上げ、いつもの調子で『また今度、食事にでもつきあってくれると嬉しんだけどね』と、軽く誘ってくる。

この人は、私の気持ちが動いていることなど、全く想像もしていないのだろう。

それはきっと、小野崎さんにとって私が、元から恋愛対象ではないから気軽に誘ってくるのだろうけれど、それがわかっているだけに、誘いに乗るわけにはいかない。

『私、恋人を作らないって公言している人と遊ぶほど、暇じゃないですから』
『手堅いね、エリ』
『いろいろ適齢期なので、考えなしじゃ行動できません。遊ぶだけなら、もっと若い子にしてあげてください』
『参ったな…もっともすぎて、反論できない』

笑顔ながら、可愛げがない上に、正論過ぎて相手に全く隙を見せない断り方をしてしまう。

本当は、他の女性と出かける小野崎さんなんて、想像するのも嫌なくせに。

そんな私の胸の内など知らない小野崎さんは、大げさに残念そうな顔すると、『じゃ、また明日…体調ぶり返すなよ』と冗談交じりに言い残し、夏の終わりの住宅街を颯爽と走り去っていった。
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