明日、君を好きになる
『それに…単純に、”まだ会いたくない”ってのもある』
『…彼女にですか?』
『いや彼女に…というより、前の職場の人達に…かな?まだ、自分自身で納得しきれてないからね』

まっすぐ前を見据え、リンと背筋を伸ばしながらきっぱりと言う。

小野崎さんの…今の自分に対してのプライドが、垣間見れた気がした。

『今だから言えることだけど、あの頃の自分は、自分のことしか頭になかったからね。一番近くにいた恋人や親友にも、誰にも相談もせずに一人で全部決断して…結局いろんな人を傷つけた気がする。若さゆえかもしれないが、怖いもの知らずって、ああいうこと言うんだろうなぁ』

当時のことを思い出しているのか、独り言のように、語り終える。

すぐ手を伸ばせは触れる距離にいるのに、なんだかすごく遠い存在に感じられた。

『小野崎さん…仕事やめたこと、後悔してるんですか?』

唐突に、質問を投げかけてみる。

『ん?…いや、後悔は全くしてないけど?』
『それなら、小野崎さんの選択は正しかった…と、私は断言してもいいですよ』

私は、いつだったか、自分が小野崎さんに言われたセリフを、そのまま返してみた。

小野崎さんも覚えていてくれたのか、フッと柔らかな微笑みを返してくれる。

『君にそれを言われるとはね…』

いつもの、自信たっぷりの小野崎さんの中にある、”弱さ”みたいなものを見せてくれたような気がして、ほんの少し嬉しくなった。

何より、”今はまだ、恋人を作らない”理由も、自分が危惧していたものとは違っているようで、ホッとする。

それと同時に、小野崎さんの仕事に対する強い信念を感じ、自分の浅はかな物の考え方を恥じた。
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