私の二人の神様へ




 そして、八月末日。


 眩しすぎる太陽に、セミは大合唱をしていた日、私の就活は終わりを迎えた。


 つまりは合格。


 セミの大合唱なんて、比じゃないほど大喜びした。


 その喜びのまま、仁くんに電話する。


 今日合格発表だと伝えてあったし、いち早く連絡するように言われていたのだ。


 仕事だから出られないかなと思ったら、ワンコールで出た。



「早いね。お仕事サボり?」



「結局、有給取ったんだ。心配で仕事なんかできやしない。本当は一緒に発表を見たかったくらいだ。とにかく、おめでとう。さすがは小春だ」



 これまた、過保護というか、私以上に緊張していたことが電話越しに伝わってくる。


 私が、言わずとも合格がわかるのは、仁くんだからもう当たり前。



「お祝いしてくれる?」



「もちろん。おい。それより、電車の時刻とか調べたか?」



 これから確約をもらった官庁へと行かなければならないのだ。



「心配ないよ。手ごたえがあったから、昨日のうちに全部準備した」



 ハンガーにかけてあるクリーニングされたリクルートスーツを見上げる。



「そうか。大丈夫だよな?いや、遅延があるかもしれないから俺が車で送るぞ」



 仁くんの喜び慌てる様子がおかしくて大きく笑った。



「だ、大丈夫。早めに出るし、車のほうが時間が読めないでしょ?」



「そうか。そうだよな。終わったら、うちに来い。小春の好きなバウムクーヘンを今から買いに行くから。あと、おじさんたちにもなるべく早めに連絡しろよ。でも準備が先……」



「仁くん!もう大丈夫だから落ち着いてよ。わかってる。終わったらメールするから」



 それだけ言うと、電話を切った。


 向こうで昼ご飯を取ることにしていたのだから早く準備をしないと、とリクルートスーツに手を伸ばした。


 何だか、はじめて笑顔でこのスーツを取ったような気がする。






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