私の二人の神様へ
「あっ!!」
「あ?」
私が場にふさわしくない声を上げ、榊田君は不愉快そうに顔を上げた。
「こ、こういう時って、男の人は何か言うことがあるでしょ?ほら、は、はじめてだし」
好きだよとか、愛してるよとか、優しくするとか何とか、そういうセリフがあってしかるべきだ。
「ああ。なるほど」
榊田君も納得してくれたようだ。
そうやっぱり、最初が肝心だ。
ドタバタから始まるのではなく、ロマンチックな雰囲気で始まり、何ともロマンチックな思い出にしたいと思うのが乙女心。
頭を抱えられ、チュッと音を立てて唇を掠められると、そのまま耳朶にも口付けが落とされ、私の耳元で囁いた。
囁く前までは完璧だった。
まさに理想通り。
だが囁いた言葉が最悪だった。
「いただきます」
…………
一秒だけ思考が停止したが、条件反射的に右足を思い切り振り上げた。
「さ、さ、さっ、最低ぃ~!!」
「お前、危ないだろ。……って、こら!暴れんな!」
暴れるに決まっている。
こんなデリカシーがない男を好きになってしまうなんて、地団駄をいくら踏んでも踏み足りない。
「離せぇ~!やっぱりやだぁ~!デリカシーがないぃ~」
「お前のほうこそ、デリカシーがない。普通、この状況で暴れるか?」
「うるさいっ~!榊田君のデリカシーの無さに、私は……もがっ、もがががっ……!!」
「だから明日説教は聞く。この期に及んで、焦らすな」
榊田君が偉そうに言うから、もががっ、と口を塞がれながらも主張しようとしたが酸欠で頭がくらくらする。
そして靄がかかる意識の中で。
榊田君と初めて会った時もこうして口を塞がれたな、とふっと思い出す。
まさか、その彼と恋に落ちるなんて。
その恋に落ちた彼がこんなにデリカシーがないなんてっ!!
世の中わからないな、とつくづく思う。