私の二人の神様へ



「で、名前は考えたのか?何なら、私が名付けても」



 お父さんが期待をこめた目で仁くんと佳苗さんを見た。



「あなたの出番なんてないわよ。二人がもう決めているわ」



 お母さんの冷たい一言にお父さんはしょげた。



「小春の名付け親を俺に取られたから、付けたいわけですね」



 仁くんは苦笑しつつも、得意げにお父さんを見た。



「何言ってる!?小春の名前は私が付けたんだ!!」



「お、お義父さん。そんなに悔しい思い出なんですね」



 佳苗さんも私の名前の起源を知っているようだ。


 きっと、仁くんが話したのだろう。


 仁くんが自慢げに話す姿が思い浮かび、ほんのり心が温かくなる。



「違う!!仁は私を真似たに過ぎない!」



 お父さんの必死の訴えに、佳苗さんはペコペコ頭を下げた。



「そうなの。仁君が名付け親。だからかしら?こんなに仁君にべったりなのは」



 いつも通り、お父さんを華麗に無視して、お母さんは言ってのけた。


 そう、私の名付け親は仁くん。


 お父さんは、春のような陽気の日に生まれたから『春』と名付けようとしたらしい。


 それを聞いて、私を抱っこしていた仁くんが「こんなに小さいんだから、小春だ!」そう主張し、ちょっとした騒動になったと良く聞かされた。



「あの時は大変だったんだから。お父さんと仁君が大喧嘩して、二人で頬を抓りあって」



「お義父さんと喧嘩って……。その時、仁って七歳ですよね?何というか、やっぱり仁はマセてたんですね」



 佳苗さんは苦笑いをし、そんな佳苗さんを仁くんは睨みつけた。



「というよりは、大人顔負けの冷めた子供だったわ。いつも、仏頂面で人を寄せ付けない子。その仁君が小春を見た途端、豹変して今に至るの」



 お母さんは意地悪な笑みを浮かべ、仁くんを見た。


 仁くんは、その話をされるのが嫌なようで、苦虫を噛み潰したような顔をする。



「おばさん、その話はやめてください。とにかく、結局、小春は俺が付けた名前を選んだんだ」



 終わりのない言い争いにお母さんとおじさんたちが仲介に入り、チラシの裏にそれぞれの名前を書いた紙飛行機を、ベビーベッドに飛ばして、見事に『小春』と書かれた紙飛行機が入ったというわけだ。


 もちろん、そのチラシは未だに残っている。




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