浅葱色の忍

山崎烝

この船が欲しいと言ったのは

随分前の事だった


慶喜と結婚をすることになる


ずっと前



それこそ… 



慶喜は、俺の名前すら知らない頃





「妬けるなぁ… 慶喜様が相手でも
烝にそんな顔されると…」


「妬ける? ふふっ 妬いてくれるんや?」


「お二人共、場所をわきまえて下さい!」



勇が、俺の頰を撫でただけで
尾形に怒られる


俺は、時が惜しい


勇と過ごす時が、あとわずかだから


人前だろうが、なんだろうが

勇に触れたいし、触れられたい

目を合わせたいし、話したいことも


ぁぁ、ずっと… そばにいたい…



乗船すると、見たいものがたくさんありすぎて、土方さんから休めと怒られた

尾形も呆れつつ、仕方なさそうに

ついてきてくれた



「少し疲れましたね 休みます」

「姫様 ごゆっくり」

「はい 皆さん、私は新選組に紛れますので
降りる時はご挨拶できませんので」

「わかりました
何かあれば、声を掛けて下さい」


「お気遣いありがとうございます」



わざわざ別室を用意したらしいけど
勇と沖田が寝てる所に、転がり込む


「お前なぁ…」


土方さんが看病していたらしく
ムッとした顔をする


「ええやん ひとり増えただけやんか」


「烝、楽しかったかい?」


「うん!凄いなぁ!こんな大っきな船が
海に浮いてるだけでも、感激やのに!
動いてんねんもん!」


「山崎君がこんなにはしゃぐの珍しいね!」


「そか?」


目を閉じれば、傷が痛む

ズキズキと脈打つ感じは、悪化していることがわかるほどだ



寝ようと思ったのに



「ううっ…」


「烝?」


「山崎?どうした?」


「着物が苦しい…」


と、土方さんを見ると


「嘘だろ……」


「着替えさせろ」


「お前なぁ… 
だったら、なんで着替えたんだよ!」


「幕府の船やさかい、元嫁でも乗らな
動かされへん」


「……あ、それで
つーか、俺じゃなくても!!」


「あ?怪我人の勇を使うとか
女慣れしてなさそうな、沖田に頼めって?」


「歳、苦しいと言っているんだから
着替えさせてあげてくれ」


「う……わかった」


「勇は、優しい!」


「悪かったな!!」


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