浅葱色の忍
家慶様が亡くなられた



葬儀に参列した






帰り支度を整えている時


男装でついてきた烝華の姿が見えず
キョロキョロしていると


「阿部殿に呼ばれていきましたよ」


誰を探しているかなんて、梅沢には完全にお見通しなのだ



「そうか」


「慶喜様」


「ん?」


「烝華がお気に召しませんか?」


「気に入っている」


「なら、どうして
夫婦の契りを交わさないのですか?」


「……」


「交わしてないのでしょう?
慶喜様は、上手く嘘をつきましたが
アレは、わかりやすい
まるで……失恋をした女子の顔」


「すぐにしなくては、ならんのか?」


「普通は、初夜に済ませるもの
慶喜様が拒んでいるのは
烝華に魅力がないせいだと
皆の声が烝華の耳に入っているでしょう
それなのに、気丈に笑っている姿は
可哀想でなりません」


「言っておくが、拒んでいたのは烝華だ」


「烝華の生い立ちはお聞きになりましたか?
あのように男装をし、学問を好み
武術は師範並み、忍術に長け
何より、あの口調…
少し考えたら、わかるでしょう?」






……わからぬ






「すみません!お待たせしましたか?」



烝華が戻った


大きな荷を抱えて…



「なんだ?それは……」


「ふふっ 阿部様がくれたんだ!
シーボルトという人の医学書!!」



こんなに喜ぶのなら

俺も何か贈ってみようか…







重そうな荷であったが
休むことなく、ずっと抱えて歩いていた


なるほど


そこらの姫とは、違う生い立ちか…






考えてもみなかった






思えば、これまで人にあまり興味を持ってこなかった


失望することが多かったから



烝華は、気になって仕方がないが
今までに会った人とは、全く違いすぎて


わからない存在だ




梅沢の言うような
可哀想という印象は、ない





へらへら笑っているか

悪態ついて、怒っているか

拗ねているか












それくらいしか、しらない
























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