浅葱色の忍

烝の傷

難産の末

産まれた子は、女の子





大きな産声を上げ

家定様や城の人々を驚かせた




汗まみれの体を拭いて貰い
着替えを済ませ、布団に横になる



疲れた…




「姫様……」


子を抱き戻って来た産婆の声色から
悪いことだと、重い体を起こした



「息が止まりました」 







産婆の手から、子を受け取った






あんなに大きな声で泣いたのに







「慶喜に抱いて貰わなきゃ……」





なぜ、そう思ったのかわからない



皆に反対されたけど

慶喜のもとに戻った


「子は、誰かに埋葬を頼み
姫様は、すぐに休むこと!
後で参りますので!」



医師は、家定様の診察が終わったら来る



籠に乗り


小さな子を抱き、屋敷に戻ると

美賀子の懐妊に慶喜は、大喜びしていた




あの女中に言われた言葉を思い出しながら



慶喜にみつからないように廊下を曲がる




「烝華!うわぁ!慶喜様そっくり!
可愛いなぁ……あれ?」



平岡と梅沢に見つかった



「死産だったのですか?」



「私……埋葬するように言われてますから
行きますね!あの……言わないで……
お慶びに水を差したくないから…」




籠を呼ばず
阿部に言われた寺まで歩いた


夏だから、早く埋葬しなければならなくて
手放すのが、つらかった



立ち上る線香の煙を追い

空を見上げる



ぜえぜえと平岡が走って来た


「この……嘘なんかつきやがって……
体は、大丈夫なのか!?」



「なんとか……」



「籠呼んであるから!屋敷に戻れ!
線香は、俺が代わりにあげるから!」


「この子には、私だけ……
私があげなくちゃ…母だもの
お乳もあげてない…
これくらいしないと…」


平岡は、何も言わず隣に座った



後から来た梅沢に事情を話
一晩、一緒に通夜をしてくれた



「もうしばらく城でお世話になる
産後は、無理しちゃいけないって言われてるから」



「帰ってこい」



平岡の言葉が聞こえた気がした





真っ暗になり、体が沈む感覚がした






苦しさにもがく
懸命に目を開けると城の部屋


平岡が心配気に覗いていた




「烝華 良かった…
お前、3日も寝たきりで…」




平岡が涙ぐんだ


前に梅沢から聞いた

平岡は、妹を病で亡くしてると







「意識が戻ったなら大丈夫でしょう」





医師の言葉に安心し、平岡が帰って行った








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