浅葱色の忍
男は、俺よりも年上だろう
手にぺっぺっと、つばを吐き
よぉし!!と、意気込み

最初の枝で、降参した



しかも




「おーい!助けてくれ!」




降りられないらしい






しぶしぶ助けてやると





「俺は、井上松五郎だ!」


悩みのなさそうな笑顔だった



「俺は… 篠塚… 篠塚岸三だ」



「岸三!!お前は、俺の恩人だ!!」



「は?」



すぐそこの枝やで?

多分…  落ちても打ち身にもならんで?


「なんだ!?そうか!!
恩人などと大袈裟だと!?
うんうん!なら、友だ!」




なんて自分勝手な奴や…


松五郎の流れに流されて
いや、松五郎の人柄が好きで



頻繁に会うようになった



そして、それを平岡から辞めるように
怒られた

今日、別れを告げる




「俺の通っていた道場にな
お前みたいな名前の奴が出入りしてて
そいつがとんでもねぇ悪だったんだ
それがさ、人間が変わった見てえに
大人しくなったと思えば、人の世話したり
本読んだだけで、すげえこと思いつくようになったり、メキメキと頭角を現したんだ
名前だけじゃなくて、なんかこう
お前に似ててな?
多分…お前も人を束ねたりとか
そういうのに長けてると思うんだ!」



松五郎の言いたいことがわからなかった




「あ、ありがと」



とりあえず、誉めてくれていると信じ
礼を言ってみた




「岸三!!やれば出来る!!
お前フラフラ木登りしてないで
どこか職につけ!俺が紹介してやろう!」



「……そういうことか」



やっと、話の筋が見えた




「働いて一緒に酒でも飲もう!なっ!!」



「松五郎…… 俺、一橋慶喜に仕えてる」



「なぜ!!そのようなことを友である俺に
隠し立てするのだ!!」



「いや、隠してないし…」




そもそも、松五郎が何してるかも
俺だって知らないのに

一方的に怒られるのは、腹が立つ



「まさかっ!!お前…他にも隠し事があるのか!?お前と俺の仲は、そんなものか!!」



腹が立つけど、松五郎には敵わない
勢いで負けている気がする



「あのな…松五郎…」



俺が口を開くと
松五郎は、真っ直ぐに俺を見つめる


「あの…」


「そうか!!そうだった!
俺の素性も言ってなかったな!
ハッハッハッ!お互い様だな!
俺は、千人同心をしている!
仕事で会うやもしれんな!」



言えなかった…



もしかしたら、松五郎が言わせなかったのかななんて思うほどだったが



また会える機会を作れることが
嬉しくもあった














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