浅葱色の忍
足音で松五郎が来たことはわかっていた

うるさいくらい一人で喋る松五郎が
何も言わずに俺の右側に座った


松五郎と触れている二の腕は

ほんのり暖かかった



「俺…忍なんだ」


「へえ それで、あんな動き出来るんだな」



お互い顔を見合わせることなかった






日が落ちるまで松五郎はそばにいてくれた






「またな」



「……」





松五郎に〝また〟と、返せなかった












屋敷に戻ると平岡が待っていた


説教だか、心配してただか
長く引き留められたが、会話をするような
気持ちには、なれなかった


翌日は、普通に仕事をした


廊下でばったり美賀子と須賀



「側室の話、聞きました」


「……そか」


「大丈夫ですか?顔色…悪いですよ?」


「触るな…」




美賀子の手を拒む


須賀が、オロオロと俺と美賀子を見る



「側室には、戻らない」 



それだけ言って

その場を離れた







気がつけば







毎日、死ぬことを考えていた



向かってくる敵の刀に
死を期待していた


強い相手を見れば、すぐに戦いを挑んだ



逃げていく奴は、一人で追いかけた



たくさん人を斬った



こんなに自分が強いなんて
知らなかった



自害は、出来ない



忍の里の掟だから




おかんの願う 女 にも

おとんの願う 忍 にも


喜代の 母 にも



なろうと努力したけど、何一つなれず



なんの役にも立っていない
そんな不甲斐なさでいっぱいだった



「止めろ!烝を止めろ!」




危険人物に認定されたらしく


俺は、暴れると薬で眠らされるようになり

それは、じわりじわり

何もかも失う感覚

闇に落ちていく

そう感じた







強制的に、側室に戻されたその日


綺麗な着物

慶喜からの紅をさし



2度目の祝言を梅沢、平岡、美賀子の見守る前で挙げた



心も体も、自分の物じゃない感覚



全部… 失っていく…





祝言が終わると

俺は… 闇に落ちた






















< 255 / 264 >

この作品をシェア

pagetop