イケメン兄の甘い毒にやられてます
5.兄には妹しかいない
全ての事情を知ってもなお、圭吾は夕陽に会えずにいた。

会いたくても、院内は勿論、学校の校門前でも会うことは叶わなかった。

それは相良教授の娘、明の妹、藍(あい)の仕業だった。

藍は、夕陽を何がなんでも、圭吾に会わせたくなかったのだ。

時間と共に、二人の気持ちは離れていくと思ったからだ。

夕陽はまだまだ高2のひよっこだ。いつ、突然心変わりするかもしれない。

そんな淡い期待とは裏腹に、夕陽の気持ちは全く変わる気配はなく、学業と、院内でのサポートと、必死にこなしていた。

だんだん、そんな夕陽を見ているのが苦しくなってきた藍は、教授室を出て、自販機でコーヒーを買うと、深いため息をついた。

「…藍さん」

そんな藍に、誰かが声をかけてきた。振り返った藍の目に映ったのは、思いこがれた圭吾だった。

「…何かご用ですか?」

だが、それを顔に出さないように、平静を装って圭吾に、言う。

「…夕陽は、頑張ってますか?元気でやってますか?」
「…何のことかしら?」

「…夕陽を藍さんや相良教授が預かってると両親に聞きました」
「…さぁ、知らないわ」

…何がなんでも、知らぬ存ぜぬで通そうとする藍。

「…今すぐにでも、夕陽を返してください」
「…だから、知らないっていってるでしょ…」

キッと睨んで圭吾を見るも、その睨みは直ぐに消えた。

…そんなに必死な顔で、夕陽を返してほしいと言う圭吾。

そんな顔を見たのは初めてだった。藍の前ではいつも、柔らかな笑みを、作られた笑みだけしか見たことがなかった。

…夕陽が関わると、圭吾は人が変わったように、必死になる。


「…そんなにあの子が大事?」
「…はい」

「…出世より?」
「…鼻からそんなものに興味はありません」

「…そんなにあの子がいいなら、この病院を辞めたら?それなら、返してあげてもいいわよ」

それに、返事はないと、返事は渋ると思っていた。

「…辞めろと言うなら、今すぐ辞めます。医者なんて、どこでもできる。だけど、夕陽はこの世に1人しかいないんです。今、夕陽を返してください」

圭吾は藍に、深々と頭を下げた。
< 88 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop