black×cherry ☆番外編追加しました
なんで名刺を渡したのかは、自分でもよくわからない。

あいつの悲しげな顔を見たからか、それとも、ただ、オレが渡したかっただけなのか。


(けど・・・渡すべきじゃなかったな)


メールならいつでもいいとか言ってしまった。

いいわけねえだろ、と、あの時の自分に言ってやりたい。


(婚約者に会った後なら・・・絶対に言わなかったことだ)


花束を持って現れた、王子のような婚約者。

ああいう場所には花を持って行くのかと、あの時初めて気がついた。

・・・まあ、知ってたところで、オレが花を買って渡すとか、できるとも思えないが。


(とにかく・・・あいつには、あいつに見合う相手がいるんだ)


今はオレを好きかもしれない。

なぜかは理解できないが、そんな気持ちきっと続きはしないだろうし、続くべきものじゃない。


(それにオレも、あいつとどうにかなりたいわけじゃない・・・)


今より10歳ぐらい若ければ、「とりあえず」とか、なにも考えずに付き合ったりしたかもしれない。

好きとか言われて、普通に舞い上がったりしたかもな。

けど今は、そうじゃない。

オレが手え出していい相手じゃないのもわかってる。


(・・・そうだ。わかってんのに・・・)


なんで連絡先とか渡してるんだ。

好きでもないし、渡す必要なんて全くないだろ。


(そうだ・・・必要ない)


これ以上、オレは関わるべきじゃない。

別になんてことはない。

これ以上、羽鳥咲良となにも関わらなければいいだけだ。


ただ、それだけ。


それだけのことなのに。

妙に気持ちがザワついた。

けれどそれを押し込めて、オレはもう、あいつには関わらないと心に固く決意した。









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