冬の恋、夏の愛

昼間は高校野球、夜はナイター。野球がますます楽しくなるシーズンがやってきた。

今日は、仕事終わりにハマスタで野球観戦。さすがにプレイボールには間に合わないけれど、夜の風に吹かれながら、ビールを飲みながらの観戦は、気分がいい。

「こんばんは」

羽島さんがいくらか遅れてやってきた。野球を観たいって言うから、チケットを取って渡していた。

「あの、チケット代……」

「いらない。それどころじゃない」

横浜ベイブルースがチャンスのところで話しかけてくるから、顔も見ずに言い放った。

せっかく、先制のチャンスだったのに……。スタンド全体からため息が漏れた。

「関さん、どうぞ」

オレに冷たく言い放たれても、羽島さんは笑顔を見せた。気をきかせて、ビールを買って渡してくれた。

「チケット代、おごってもらったから」

「あ……。ありがとう」

そこは素直に受け取ると、ビールで乾杯をした。

「今、どっちの攻撃ですか?」

スコアボード、見て? アナウンス、聞いて? 書いてあるし、言っているから。そう思いながら、ぶっきらぼうに答えた。

「ああ、そうなんですね」

わかっているのやら、いないのやら。とりあえず放置して、観戦に集中する。

「関さん、あの……」

「ごめん。話すのなら、イニング間にしてくれる?」

オレは試合、観ているんだから。羽島さんだって、仕事帰りにわざわざ来たんでしょ? オレと話している場合じゃないよ?

そういう思いが、口調に表れてしまった。

「ごめんなさい」

羽島さんはそれっきり、無口になった。それはそれで気になって、試合に集中できなくなった。

羽島さんにかわいそうなことをした。これから野球はひとりで観にこよう。

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