婚約指環は手錠の代わり!?
「でも、海瀬課長こそ早く行かなきゃいけないんじゃ……」

おそるおそる顔を窺うと、人差し指でブリッジを押し上げた、海瀬課長の眼鏡がきらりと光った。

「は?
僕なんて今日は必要ない。
主役は君、だろ」

「……はい」

積んであったファイルを半分どころかほとんど掴むと、海瀬課長は席に戻っていった。

「あの」

「ん?
君の処理速度から考えるとこれくらいが妥当だと思うが?」

にやり、海瀬課長の右の口端があがって人の悪い笑みを浮かべる。
暗に、私は使い物にならないと云われた気がしないでもないが、スルーしておこう。

 
海瀬課長の処理速度は恐ろしく速く、あっという間に仕事は片づいてしまった。
さすが、二十代で課長は伊達じゃない。

「さっさと準備しろ。
行くぞ」
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