冷たい雨の降る夜だから
「なんで?」

「なんでって」

先生は私から目を逸らす。

「腹立つに決まってんだろ。卒業式にあんな手紙だけ置いて帰られたら。こんなもん置いてくくらいなら待ってろよ馬鹿娘って思うだろ」

「……ごめんなさい」

 しゅんとして謝ると「今更だけどな」と先生が苦笑する。

「ねぇ、あの手紙ってどうしたの?」

「どっか行った」

 素っ気なく帰ってきた言葉に「嘘つき」と心の中で返す。ちゃんと卒業アルバムに挟んで持っててくれているくせに。素直じゃないんだから、ほんとにもう。とはいえ先生が素直だったら、それはそれで気持ち悪いから、素直じゃなくていいんだけど。

「あ、猫ちゃんまだ居た。元気だった?」

 昔と変わらない壁側の実験台の下に鎮座している猫ちゃんの前にしゃがみ込んで、その頭を撫で撫でする。

「壊れたぞ」

「え、壊れちゃったの?」

「だいぶ前に冷えなくなった。もうただの棚」

「捨てちゃう?」

 先生は、冷えたら何でもいいっと言って猫ちゃんを連れて来たから、冷えなくなったら要らないとあっさり言うような気がして、恐る恐る先生に尋ねると、先生は首を傾げながらため息をついた。

「そいつさ、ちっさいクセに冷蔵庫だから捨てるの費用かかるんだよ。その辺放り出して野良猫にするわけにもいかないし」

 野良猫って、と思わず笑ってしまう。

「捨てちゃうなら、欲しいな」

「そいつ?」

「うん。だってね、猫ちゃんいたから、頑張れた時だってあるんだもん」

 猫ちゃんの前にしゃがんでいる私の隣に先生もしゃがんで、目が合った。
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