冷たい雨の降る夜だから
 愛香が大学時代から付き合っていた同い年の彼は、都市銀行に就職して、12月の中旬に大分への転勤が決まった。そして、遠距離になるから別れたという次第。

「後悔もなにも、向こうが遠距離する気無いって言ってんだからそこで終わってんじゃん。続ける気が無い人とは続くものも続かないよ」

 さばさばと言い放ってジンライムを飲む愛香は、いつもと同じようでもやっぱりどこかやけっぱちにも見えた。

「まぁ、そう言うなら……うん、誘うよ。ガンガン呼ぶよ」

 もっといい男見つけてやろう! と俄然やる気を出したさやかに 

「ところでさ。翠がなんか雰囲気変わったと思うんだけど」

「え?」

 不意に矛先を向けられて、思わず助けを求めて夏帆を見ると、自分で言いなさいというように、にっこりと笑顔を返された。

「菊池、まだライン攻撃してきてる?」

 少し気遣うような言葉に、小さく頷いた。菊池君には、二人で会う気がない事も、さやか達が一緒でも飲み会に行くつもりが無い事も、きちんと伝えた。それでもまだ、ラインは届く。付き合っている人が居るとも言ったけれど「嘘つくならもっとうまい嘘つけ」と取り合ってもくれなかった。

「菊池ね、強引だけど悪い奴じゃないよ。ちょっと暴走してるけどさ」

「さやか。翠は翠のペースでいいじゃん」

 ね? と夏帆が笑うのを見ながら、私は夏帆の口の堅さにただただ感心していた。結局、先生の事は一切話せないままさやかの愚痴に付き合って、お店を後にする頃には、変な疲れが蓄積してしまっていた。

 電車に乗ってスマホを見ると先生からメールが返ってきていた。先生のメールはいつも言葉が少なくて素っ気ないのに、それでもメールが届くだけで嬉しくて頬が緩む。メールを返すだけなのに、心がふわふわと浮くような気がした。私、幸せかも。そんなことを思いながら窓の外に視線を投げると、少し嬉しそうな表情の私が窓に映っているのが見えて、何となく恥ずかしくて下を向くと、丁度スマホがメールの到着を告げる。

『気をつけて帰れよ』

 たったそれだけの先生のメールなのに、好きな人とちゃんと繋がっていられることの幸せに、頬が緩んだ。
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