冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ

 穏やかな昼下がり。

「レイは何を考えてるのかしら」

 溜息交じりに愚痴を零すと、遊びに来ていたエレインが不思議そうに首をかしげた。

「何かあったの?」
「最近のレイの態度がね……変なのよ」
「変? もしかして貢物の事?」
「貢物って……」

 あんまりな言いように、私は苦笑いを浮かべながらも頷いた。

「エルガー公爵の夜会から後、ずっとプレゼントが届くの。私の身分には勿体ない贅沢品ばかりがね。それにやたらと会いに来るわ」

 レイはほとんど毎日我が家に来て、ほんの短い間でも私の顔を見て行こうとする。

 貴族街の中でも辺鄙な位置に建つルウェリン邸はレイの家から距離があるのに、それでもレイはまめに通ってくるのだ。

 宰相補佐の仕事はどうしているのだろう。
 まさかサボっているのでは? と疑いたくなるくらい。

「別におかしくないでしょう? きっと愛する婚約者に会いたくて必死に仕事を片付けているのよ。貢物もただ贈りたいだけでしょう? レイの自己満足だから遠慮なく受け取ればいいのよ」

 エレインは暢気にそう言いながら優雅な仕草でお茶を飲む。

「そうは言っても急な変化についていけないわ。それに見ての通り私の部屋にはレイのプレゼントを仕舞う場所がもう無いから困っているのよ」

 寵姫のように毎夜の華やかな宴に出るわけでもない私には、レイのプレゼントは宝の持ち腐れになりそうだ。

 膨大な衣装、装飾品を管理する場所も人手も足りない。
 弱小貴族のルウェリン男爵家の使用人は最低限の人数に抑えられているのだ。
 私の衣装管理になんて時間をかけている暇はない。やはりプレゼントはもう充分だから止めるようにレイにはっきり言わなくては。

 そう決心していると、エレインか何気なく言った。

「それにしても、どうして急に積極的に迫るようになったのかしらね」

 私は驚いて目を丸くした。

「エルガー公爵の夜会の時のエレインがけしかけたんでしょ? そうレイが言っていたわ」

 散々煽っておいて忘れてしまったのだろうか。
 エレインは当時の事を思い出しているのか少し目を細め、それから納得いかない様子で軽く首を傾げた。

「大した事は言ってないわよ。あんまり放っておくとローナに捨てられるわよ。とか、こんな状態が続くならローナには私がもっと優しく気の利く貴公子を紹介するわ。とかね」

「それだけ?」

「あとはそうね……ローナは鈍感だから多少強引にいかないと伝わらないわよ、とは言ったかしら。もう婚約しているのだし押し倒してしまったらいいのよ。とかね」

 何て事を言ってくれたのだ。

 見かけは完璧に美しい上級貴族令嬢なのに、社交界の遊びなれた男性のような台詞を言うなんて。

 それに煽られて本当に実行してみせるレイもどうかと思うけど。

 項垂れながら思わず呟く。

「レイが私を好きだって事が信じられないのに、こんな事になるなんて」
「どうして? 婚約者じゃない」
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