冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 遠くに見える連なる山の間から、太陽が昇り始める。

「もう、朝なのね」

 私は想像していたより、長い間監禁されていたらしい。
 
「直ぐに助ける事が出来なくてごめんな。怖かっただろ?」

 レイが心配そうに言う。
 
「怖かったけど、その時間はほんの短い間だったの。私、ずっと気を失っていたみたいだから」

 今思うと目が覚めなくて良かったと思う。一晩中あんな恐怖を感じながら過ごしたらおかしくなってしまいそうだもの。

「ローナを探している間中、生きた心地がしなかった。あいつの詰めが甘かったから助かったが、そうじゃなかったら……」

 レイが不安そうに顔を曇らせる。レイのそんな顔を見るのは初めてかもしれない。

「私はもう大丈夫。レイが助けてくれたからよ」
「ローナ……」
「一晩中私を心配して探してくれたの?」
「当たり前だろ?」
「ありがとう、レイが来てくれて凄く嬉しかった」

 一番初めに来てくれたのがレイだから、今私は笑う事が出来るんだと思う。

 レイが居なかったら、未だに恐怖から解放されず震えていたかもしれない。

「ローナ」

 レイが私を抱く腕に力を込めた。
 私の存在を確認するかの様に。

「レイ、準備が出来たぞ!」

 帰りの馬車の支度が出来たようで、驚く事に王太子殿下自らが呼びに来てくれた。

「ああ、今行く」

 レイは平然とそれを受け入れ、私を馬車へ運んでくれた。
 自らも馬車に乗り混むと、窓の外に合図を送った。

 ゆっくりと馬車が動き出す。
 辺りには数軒の家屋が有るけれど、どれも古く手入れもされておらず、人が生活している気配は無い。

「そう言えばここはどこなの?」
「王都から見て北にある今は廃墟となった名も無い村だ。ローナが囚われていたのは、領主館に当る所だと思う」

 名も無い村。私を捕らえていたあの人と何か関係があるのだろうか。

 あの人と、レイとの間に何が有ったのだろう。それからティアナ様との関係は?
 
 ルウェリン邸に帰ったらレイに全て話して貰おう。

 だけど、今は少しだけ休みたい。

 周囲の音が小さくなっていく。
 
「おやすみローナ」

 レイの声を最後に私は眠りに落ちた。
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