【超短編 19】カウント
カウント
 ワン、ツー。
 カウントが聞こえる。気取ったように英語でなんか数えやがって。ここは日本だ。日本語で数えやがれ。
 小学生のとき少しだけプロレスがブームのときがあった。いつの時代のどんな場所でもこの手の流行は人生の中で一度はくる。休み時間になると教室の後ろで誰かが誰かに技をかけ、高度なものになると補助者を使ってまで完成させる。俺は誰の補助もなくキャメルクラッチがかけられることが自慢だった。それはただ単に手足が長いのに体が軽かったために全体重を相手に乗せても倒れずに済んだというだけのことだった。
 スリー。
 これで終わりだ。俺の負けは今決まった。小学生のときからだ。俺がヒーローだったのはその短いプロレスブームのときだけだった。他のスポーツは得意じゃなかった。野球もサッカーもやっていて面白くなかったし、ボールをうまく操ることができなかった。勉強はさらに苦手で、中学に入って算数が数学になってもそれは変わらなかった。気づけば学校にもあまり行かなくなっていた。
 春という名前の30歳近い女に出会ったのもその頃だ。俺は婆さんのような名前だと言ってバカにしたが、本当は気に入っていた。彼女はよく自分の事をショタコンだと俺に言いながら首から順々に体を舐めまわした。俺はそのときショタコンの意味がわからなかったが、知らないことを恥だと感じ、知ったかぶりをした。それにその意味を聞いてしまうと彼女がいなくなってしまうのではないかという恐怖もあった。結局そんなことを聞かなくても数年後、彼女はガス管を首に巻いて俺の前からいなくなった。
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