東京恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~
私たちは寄席小屋の近くの蕎麦屋に足を踏み入れると、そこで遅めの夕食をとることにした。

「今日は僕のわがままにつきあってくれて、本当に感謝しているよ」

盛りそばを食べながら、村坂さんが言った。

「えっ、あー」

かき揚げそばを食べていた私は、そもそもこれは村坂さんが半ば強引に連れてきたからだったと言うことを思い出した。

「いいですよ、結果としては私も楽しめましたので」

私はそう言うと、かき揚げをかじった。

「落語と言うものはね、本当に奥が深いんだ。

その魅力を1度知ってしまうとね、最低でも週に1回は寄席に行かないと気が済まなくなるよ」

村坂さんは箸を置くと、身振り手振りで落語のおもしろさを語った。

子供のように語る生き生きとしたその表情を私は微笑ましく思いながら、そばをすすった。
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