きみは宇宙でいちばんかわいい
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「忘れ物ないかなぁ。大丈夫かなぁ」


すでに手荷物をあずけ、空港内のカフェで出発までの時間を潰しているにもかかわらず、まだそんな心配をしている。

うんざりするほど小心者の妹を、車で送迎するついでに付き添ってくれている兄は、バカにするように鼻で笑った。


「あったとしても、もう遅いよ。ていうか、現地在住の彼氏がいるんだから、大抵のことはべつに平気だろ」


これは、安心させようとしてくれているのではなく、ただからかっているだけのトーンだ。

だけど、こちらがどんなに怒った顔をしようと、それを更に面白がって笑うのが、うちの兄なのである。


「あーあ。まさか、ななが海外に男作るなんてな。いまだに信じらんねーわ」


アイスコーヒーを勢いよくストローで吸い上げ、いっきに飲み干したお兄ちゃんが、深く息を吐きながら言った。


「……その言い方、なんか嫌だから、やめてよね。“男作る”って」

「いちいち細かいこと気にしてんなよ。ぴーぴー泣いてばっかだったヘナチョコの妹が、知らないうちにすげー方向に成長してるもんだから、とにかく感心してんの、お兄ちゃんは」


それはいったいどんな方向なのか、気になったけど、話がこじれるだけだと思ったので、やめておく。

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