きみは宇宙でいちばんかわいい


やがて、わたしのグラスも空になっていることを確認したお兄ちゃんが、おもむろにポケットから財布を引っぱりあげた。

お会計をするのかと思いきや、なぜか一万円札を取りだすと、テーブルの上を滑らせ、こちらに差しだしたのだった。


「え、なに? これ……」

「ロイヤルミルクティー、こんだけ分、買ってきてもらおうと思って」


そう言われて、脳裏に蘇ってくるのは、もみじ饅頭の悪夢だ。

なにがあっても、どんなときでも、妹をからかうことしか考えていなくて、本当に嫌になる。


「ちょっと! ほんとに怒るよっ」


なおもげらげら笑いながら、「嘘だよ」と言う。

絶対、最低でも半分くらいは、嘘じゃなかったと思う。


「おまえ、貯めてた小遣い、航空券買うのに溶かしたんだろ? むこうで遊ぶ足しにしろよ」

「ええ? そんなの、べつにいいよ。大事なバイト代でしょ? 急にカッコつけないでよね」

「手間賃だっつの。彼氏に、次に日本に来たときはお兄さまの元へ挨拶しに来いって、きっちり伝えとけよ」


お兄ちゃんからの一万円も含め、財布の中身をすべてポンドに替えると、いよいよ飛行機に乗りこんだ。


約16時間後、
わたしは、きっと、ロンドンにいる。



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