きみは宇宙でいちばんかわいい
  ・
  ・
  ୨୧


先生に頼まれるがまま、黙々と仕事をこなしていたら、知らないうちに陽が沈んでしまっていた。


「“世界史はハズレ”って、これかぁ……」


ひとりごちながら、しょんぼりした気持ちでスクバを持ち上げ、肩に提げる。


いまはかろうじて紺色だけど、ぼうっとしているうちに、世界はたちまち夜の黒に飲みこまれてしまうだろう。

急いで教室を出ると、足早に下駄箱へ向かった。



新学期がはじまってすぐに行われた“役員決め”で、わたしは教科係のうち、世界史の担当をすることに決まっていた。

なぜか、誰もやりたそうにしていない係だったから、選挙はおろか、ジャンケンでさえ回避したかったわたしは、すぐに自分の名前を書いた、のだけど。


きょう、やっと、誰もやりたがらなかった理由がわかった。

世界史担当の先生は、教科係の生徒をこき使うというので、ちょっと有名な人だったらしい。


あした使うプリントを、全員分ホッチキスで留めていたら、この時間である。

もう少し要領のいい人がやっていれば、ここまでの時間はかからなかったのかもしれないけど、いかんせん昔からトロくて仕方のないわたしなので、どうしようもない。



「――あれ。なな?」


下駄箱に上履きを差しこみ、かわりにローファーを引き抜こうとしたところで、聞き慣れた声に呼びかけられた。

< 35 / 285 >

この作品をシェア

pagetop