そのくちづけ、その運命
その会話があってからの私の接客態度はお世辞にもいいとは言えなかった。

普段からまったくミスをしないわけではなかったが、今日の比ではない。


それまでは穏やかに、いつも通りの接客ができていたはずなのに、

いきなりのオーダーミス連発。

コーラをソーダと聞き間違えるのはまだしも、
最終的には、パスタとグラタンを間違えた。


はぁ……あり得ない。

店長にも、樋口くんにも、ほかのスタッフさんにも平謝りを続けるしかなかった。


すみません。次から気を付けます…



……はぁ。本当に自分が嫌になる。



結局峰倉くんとの会話を終えた後、厨房への戻りがけに樋口くんがいきなり

「あいついいやつでしょ。井上さんに気があるんだよ」

と言ったときは寿命が縮んだかと思った。


は!?なんでそれを私に言うの、この人は!!


面白がっているようにも聞こえて、無性にイラッとした。



そんなわけないと思う。

ほぼ初対面の人間に対して特別な感情なんて持ちようがないでしょ。

話したのも今日が初めて。

でも、話って何だろう。


なんか、緊張するな。

考えてみれば、それは当然のことで、
男子と二人きりで会話すということ自体、大学に入学してからの3年間ほとんどなかった。

それに、あんなに綺麗な人となんて…


………落ち着け、実琴。
大丈夫。
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