そのくちづけ、その運命
そうこうして、俺は大学生になり、
元の家から1kmも離れていない、地元の芸術大学へ通うことになった。

合格が決まったとき心の内にあったのは底なしの安心感と、俺を導いてくれた井上実琴ちゃんへの感謝だった。

あのとき、君に出くわしたのは本当に偶然だろうか――?

あの瞬間があったから、俺は弱い自分に打ち勝って、本来の自分を見つけることができたんだと思う。
自分のやるべきこと、目指すべきことに気付いた。気づくことができた。

絵を描きたい。自分の得意なことってそれくらいだし、笑われてもいい。
絵で人を感動させられる大人になりたい。



親の転勤に合わせて、東京の大学に進学する選択肢もあったけど、俺は頑なに首を縦に振らなかった。

親には「ここにもちょうど芸大があるんだし、そこの美術学部に通いたい」
とか何とか言っておいた。

もちろんこれも本音だ。

だけどもう一つの本当の理由は――

あの子に、

ひそかに恋心を寄せるあの子に、同じ街に住んでいればいつかは会えるんじゃないかと淡い期待をしていたから…

なんて、そんなこと親に言えるわけがない。

彼女は3年生になったばかり。あと1年はこの場所にいる――


……*……*……

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