そのくちづけ、その運命
大学に入学してからの時間は予想をはるかに超えて瞬く間に過ぎていった。


気づけばもうすぐ3年生になる、そんな時期。


入学当初からの友人である樋口雄二のバイト先に行くことになった。
雄二がバイトを始めるのは意外だったが、金を溜めてやることがあるらしい。
大学の友人を何人か誘って足を運んだ雄二のバイト先――…




そこに、彼女はいた。

清潔感のある艶のある黒髪。
当時、後ろで縛っていた彼女の髪は、肩のあたりでカットされていた。
毛先には少しクセがあるようで、しかしそのクルンとしたシルエットと、ライトグリーンのエプロンに頭の上の三角巾がよく似合っている。

…可愛い。
髪型以外全然2年前と変わっていない。
地元の大学に進学したのだろうか?
大学生だというのにあまり化粧をしていない、その彼女の素顔を食い入るように見つめてしまう。
気づけば店内を忙しそうに行ったり来たりする彼女に俺の目はくぎ付けだった。

「まーなとー、どこ見てんの?」

「あぁ、何でもない」


あれから、結局あっという間に2年間が過ぎてしまったけど、君はもうこの場所を離れてしまっただろうか――

そんなことが日々頭をもたげていたから、あそこで彼女を見つけたときはまるで天にも昇る気持ちだった。


俺はもはや井上実琴のことしか考えていなかった。

あの笑顔を俺にも向けてほしい。



俺は勝手に興奮して、
今思えば本当に独りよがりに――
これは運命だと決めつけた。

あの、ほんの一瞬のうちに起こったことを忘れられない。


けれど、初めてそのレストランに行ったときは、奇しくも大学の友達何人か、その中には女子も二人いたから、俺はこの状況を彼女に見られたくなかった。
彼女たちには申し訳ないけど、真面目な実琴ちゃんにただのチャラい奴だと思われるのが怖かったんだ。

今思えばそれは本当に自意識過剰で、どうしようもなく馬鹿な発想だけど。

そもそも実琴ちゃんは俺のことを知らないのに、な。

ただの赤の他人がどこで何をしようと、関係ないもんな…

悲しいけど、それは事実。

高校卒業までにまだ時間はあったのに、彼女の前に立つ勇気がなくて逃げてしまったのは俺だ。


――だから、変えたい。

今からでも。

想いを伝えよう。
またここに来て、そのときは、今度こそ告白する――…


彼女は驚くだろうか…
それとも不審に思う?

彼女にとって俺は赤の他人。
俺は、さっさとその関係から抜け出したい…

どうしようもなく、君が好きだ――…

………*………*………
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