取り込む家
険悪な雰囲気が穴からこの部屋までのぼってきているような感覚だった。


こんな言い争いをしている2人を見るのは初めてだった。


俺は固唾を飲んで様子を見守る事しかできない。


サキは自分を落ち着かせるように大きく呼吸を繰り返していて、その呼吸音だけが静かな部屋に聞こえてきていた。


「もういい。朝飯はいらない」


サキに対して優しかったユウセイが、冷たい口調でそう言い、リビングを出て行ってしまった。


1人残されたサキは両手で顔を覆い、大きくため息を吐き出した。


今ならまだ謝る事ができる。


仲直りするのだって、きっと簡単だ。


だけどサキは優生を追いかけようとせず、1人で残り物のハンバーグに手をつけたのだった。

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