押したらダメだよ、死んじゃうよ
「固まっちゃって、どうしたの? もしかして怖くなった?」
「うるさい!」
せせら笑うように発せられる声に、噛み付く。
思ったよりも大きな声が出て、自分が平静でないことを知った。
まさか今更怖いなんて思ってるんだろうか。
あんなに悩んで、あんなに考えて決めたことなのに。
小さく身体を震わすわたしの横で男が立ち上がったのを空気で感じた。
「地上13階だと、ざっと40メートルちょっとってとこか。下は塗装されたアスファルトだから、真下に落下すればほぼ間違いなく死ねるね。」
男は呑気に遊歩し、未だ立ち尽くしたままのわたしの横からひょいっと顔だけ出して下を見る。
「時間にして、約3秒。文字通り一瞬だね。あ、っと思った時にはもうきっと死んでる。ねえ、やっぱりさ走馬灯とか流れるのかな? けどそんな一瞬だったら冒頭あたりしか見れないと思わない?」
「もうっ、うるさいなっ! 知らないよ! そんなに気になるなら自分が飛び降りれば⁈ 」
段差は約30センチ。
けどその差を使っても155センチのわたしは男の身長を僅かにしか追い抜けてない。
お陰で、男の顔とわたしの顔はほぼ同じ高さにあって、何故かその距離も近い。
ごちゃごちゃとうるさい男に苛立って睨みつけてるわたしの方を不意に男が振り向く。
それは、