押したらダメだよ、死んじゃうよ

「やだよ。死ななくてもいいのに死ぬなんて、そんな勿体無いこと僕には考えられない。」


喋れば息がかかる距離。

言ってることはとんでもないのに、その瞳はまるで慈しむように世界を眺めてる。


「……。」


思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「こんなに楽しいことを自ら手放すなんてバカげてる。」

「楽しいこと…?」

「そうだよ? 生きるって、楽しいことでしょ?」

「……。」


わたしにはわからない。
ちっともわからなかった。

わたしにとって生きるっていうのは苦しいことだった。

苦しくて退屈で窮屈で―――、窒息しそうな毎日をひたすら駆ける。息が上がって足が限界を訴えて、それでも立ち止まることすら許されない。

生きることは楽じゃない。
頑張らないと生きていくことすら出来ない。

楽しいなんて、


「そんなの、思ったことない。」


到底思えそうになかった。
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