押したらダメだよ、死んじゃうよ
「あ……、」
男は上半身を乗り出した状態のまま、しっかりとわたしの腕を掴み、見下ろしている。
「自分を泣かせるような選択を自ら選ぶなんて、君は変わってるね。」
浮かぶ笑みは呆れてるようにも、バカにしてるようにも見て取れた。
「やだ……っ」
「……僕はこの手を引き上げることも、離すことも出来る。」
「待って、」
「けど、選ぶのは君だ。」
「……っ、怖い、」
「なら、言えばいい。助けを乞え。言葉にしないと、願いは叶うどころか伝わりすらしないよ。」
掴まれてる手が痛い。
けれど、ここで助けて、と言えば痛みはそれに留まらない。
この男のことだ。どうせまた屋上のコンクリートの上、投げ捨てられる。
多分、すごく痛いだろう。
そんな風に痛い思いをして助かっても待ってるのは息苦しいだけの日常だ。
どうせまた近いうち、死にたくなる。
どうしょうもなくなって、死ぬしかなくなる。
けど、それでも、