私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
美歩に会いたかったのに。

断る前に電話を切られてしまった。

私はくるんと向きを変えて、人の流れに逆らいながら、仕方なくSビルに向かう。

地上に出ると、ビル風に煽られる。

寒い。もう、帰りたい。

帰って、美歩の家で飲みながら話をしたいよ。

でも、約束してしまった。仕方ない。

言われた通り、Sビルの通りに面したところで待っていると、車が一台やってくるのが見えた。

車は私の目の前で止まった。

高陽さんは、運転席から降りると回り込んで助手席のドアを開けてくれた。

「乗って」

相変わらず、言葉はあっさりして事務的だ。

言葉は、ひどいけど彼の動作は洗練されていて、カッコいい。

おまけにビシッとスーツで決めている様子は、絵になる程素敵。

けれど……

どこへ連れて行くんですか?

行先と所要時間を聞くべきだった。

聞き損ねてしまった。

今度から、彼が電話を切る前に一度に聞くようにしよう。

一方的に聞いてやろう。この機械人間が電話を切らないうちに。

高陽さんは、車のドアを閉め、無言でエンジンをかける。

でも、ちょっと変。

変なのは、彼ではなくて車だった。

高陽さんが乗ってる車は社用で使ってるコンパクトカー。

言っちゃ悪いが、かなりミスマッチ。

彼は、それを気にせず、私が乗り込んでるのを忘れてるみたいに運転に集中してる。

大きな男性が小さな車に乗ってるのは、なぜか微笑ましい。

可愛い。真面目に運転している彼の横で、笑いださないようにぐっとこらえる。


似合わないコンパクトカーとのギャップにやられてしまった。

この人、慌てて来たのかなと思って。



考え抜いたBGMなんかじゃなく、適当にラジオのスイッチをつける。

スピーカーから陽気な音楽が流れてくる。

高陽さんは、私のことも、ラジオの音声も無視して運転している。

私は、彼の考え込む姿を見て、運転中に話しかけるのを嫌うタイプだわと思った。


なので、彼が運転に集中できるように、幹線道路から外れて慎重にカーブを曲がりきり、住宅地に入って行くまで黙って大人しく待っていた。


「何か食べた?」ぶっきらぼうに尋ねられる。

「いいえ。でも、忙しいなら気にしないでください」正直に答えた。

食べるなら一人の方がいいです。

「今から食べに行ってる時間はないから、どこかで適当に食べよう」

「はい」やっぱり私の話を聞いてない。

まあ、いいか。

この人は見ず知らずの人ではない、夫なのだから。

食事のことよりも、これからどこに向かうのか。

何で時間がないのかって聞きたかったんだけど。

適当にって何?突っ込みどころ満載。





< 33 / 173 >

この作品をシェア

pagetop