私はミィコ
「ただいま……っと、ここにいたのか」
「にゃあ」

ミィコはきっとご主人様である旦那様が好きだ。
だったらそう、待ちきれなくて扉の前へ行くに違いない。
そう思って扉の側にしゃがんでいると、扉を開けて私を見つけた彼は嬉しそうに笑った。
どうやらひとまずは正解だったらしい。

同じようにしゃがんで髪を撫でられる。
その手が嬉しくてすりよってみる。
少しでも猫らしく。
だって私はミィコなんだから。
大丈夫。
“仕事なら”適当にはしない。

チリン、と首輪についた鈴が鳴る。
そのたびに彼は嬉しそうに笑った。


「ミィコ、おいで」

スーツのジャケットを脱いだ彼はそれをハンガーにかけるとすぐ、ソファーに座りながら私を呼んだ。
昨日までの私も朝までの私も。立ち上がって近寄ったけれど。
もう違う。
ちゃんとやるって決めたから。

「にゃ」

小さく鳴いて控えめに地面を這う。
四足歩行。
歩きづらいなって思いつつソファーまで行く。
羞恥心はどこかへと消えていた。
だって。
たったそれだけでこんなに嬉しそうな顔をするから。


「ミィコは呑みこみが早いな」

そう呟いた声は、“ミィコ”ではなく“私”に言っているように聞こえた。
たったそれだけでまた心音と体温が上がる。

ソファーの側まで着くと彼に抱き上げられた。
そのまま甘えるように膝へと腕を乗せて乗り上がる。
重いだとかは気にしない。
だって私は猫なんでしょう?


「ミィコ、毛を揃えたのか」


彼はそう言って髪を撫でる。
美容室へ行ったばかりだからかその度にいい匂いがする。
撫でる手が心地よくてすり寄った。
私が猫ならこの人に好かれたいから。

「にゃあ」

鳴くのにも少しずつ慣れた気がする。
抱きしめる腕が温かい。
うとうとする。寝ちゃいそう。


「ミィコ。疲れているのかな……おやすみ」


彼の声が遠くなる。
私はそのまま意識を手放した。

< 8 / 14 >

この作品をシェア

pagetop