あの夏の空に掌をかざして
 298回目、あたしは、お母さんに最後かもしれない電話をした。


 プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル


 ぴったり4コール目で、電話が繋がった。


 出張中だったから、出れるか心配だったけど、どうやらそれは杞憂だったようだ。


『もしもし?あかり?』


「…お母さん」


 お母さんの声が、何だかすごく懐かしくて、数年ぶりみたいな感じがして、目の前が滲んだ。


 いくつか他愛の無いような話をして、近況を報告して、そして、沢山の感謝の気持ちを伝えた。


 お母さんは、『変な子ね』と誤魔化していたけど、電話越しでも照れていることが手にとって分かった。


 今まで、生まれてから16年間、ずっと一緒だったから。


 そんな人たちと、永遠に別れることになるかもしれない。


 そんな悲しみをこらえて、努めて明るい声を出した。


 スマホを片耳に近づけながら、天井を仰いだ。


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