あの夏の空に掌をかざして
 午前9時45分、そろそろ日向があたしの家に迎えに来る時間だ。


 そわそわしながら、10秒置きくらいに、壁に立て付けられている時計を見る。


 早く過ぎてほしいような、まだ来てほしくないような、変な気分だ。


「あ…、そろそろ服を着替えなきゃ」


 袋から、楓と遊びに行った時に買った服を取り出す。上から下まで、全部のコーディネートをしてもらったのに、予想していたほどお金はかからなかった。


 古着屋ってすごいな~。どうりで人気が出るわけだ。


 納得しながら、服を着進めていく。髪を崩さないように、頭だけは慎重に、それ以外ははやる気持ちを抑えきれずに、ぱぱっと着替え、姿見に立つ。


 オフショルダーで細いストライプ柄の膝上ワンピに、黄色いカーディガンを鎖骨の中心で軽く結ぶ。靴は、白くて爪先のでた、少しだけヒールのあるサンダル、首もとには、主張しすぎないハートの飾りがついたネックレス。夏らしい、爽やかなコーデだった。


 そこに立っているあたしは、前も見たけど、自分でも別人なんじゃないかってくらい、雰囲気が違う。


 服装で、印象ってこんな変わるんだ。


 姿見で確認したあと、持ち物の準備をする。流石にリュックは似合わないので、古着屋でチェーンがついた、白いショルダーバッグを買った。コンパクトであまり入らないけど、財布があれば十分だ。


「よし、準備万端!」


 時計を見ると、午後9時59分。そして、長い針が12にピッタリと重なった。 


 ピンポーン、あたしの家のチャイムが鳴った。
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