あの夏の空に掌をかざして
 けど、そんなの無理だって分かってるから。


 だって、


「ん?どうかした?」


「あ……ううん!何でもない、アイス美味しいね!」


 うつ向いてぼーっとしていたあたしの顔を、日向が心配そうにのぞきこむ。あたしは身長が150しかなくて、日向とは約30センチの身長差がある。いつもは見上げる整った顔が目の前にあったので、いきなりの事に顔が真っ赤に染まる。


 どうやら考え込んでいたらしい。アイスも溶け始めていた。


 安心したように、笑った日向の顔を見て、またチクリとどこかが痛む。


「はは、あかりちゃんはほんと変わらないね、考え出したら周りが見えなくなるとことか」


「うっ……うるさいな」


 慈愛に満ちた表情に耐えきれなくなって顔を背けると、ぽんぽん、と頭を撫でられる。


「これからも純粋なあかりちゃんのままでいてね」


 ……違うよ、あたしは、純粋なんかじゃ全然ないんだよ。


 このままなんて嫌だよ、あたしは、日向に、好きになってもらいたいの。


 だけど、日向は、あたしが"変わらないこと"を望んでいる。日向は「お兄ちゃん」で、あたしが「妹」。それはきっと、これからも変わらないんだろう。
 

 言えるはずもない想いをひた隠しにして、あたしは何も知らないような顔で笑うのだった。
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