先生、僕を誘拐してください。
これで今までの言動が腑に落ちた。
ただ衝撃が大きかったというか、ショックは大きい。
「色々教えてくれてありがとう。あと弟のことを気にかけてくれて」
『あの、でも朝倉くんはそんな悪い人ではないから誤解しないでほしくて』
「あなたにとって悪い人ではなくても、私にはどんな立場になるかわからないからそこは保証できないよ。ごめんね」
何が目的かわからない以上、そんな簡単に相手の行動の理由を良い人だからという理由で納得できない。
『こっちは知らないのに、知ってて近づくなんていい方向ではないのは確実だよ。当たり前だ』
奏からは恨み言が止まない。奏には警戒する相手なんだ。
『そうだよな。俺は蒼も奏も大切だと思ってるんだけど、朝倉くんも嫌いじゃないからつい焦れちゃって。ごめん』
「いいの。ありがとう。おやすみなさい」
村田くんの話はこれ以上聞きたくなくて、お礼もそこそこに切ってしまった。
そして、窓辺の奏と二人きり。
確かにこの話は簡単に言えないよね。私にも蒼にも言えない真実を抱えて重たくなって、窓辺に落ちてきた本音なのかもしれない。
「一人で抱えるにはしんどくないの?」
私の問いに、奏は唇を噛み締めた。
そして肯定とも否定ともとれる曖昧な頷きのあと、私を見る。
『それでも先生が傷つかないほうがいいなって思って言えなかった』