先生、僕を誘拐してください。





「おい、ご飯だってば」

ノックというには些か乱暴な音に振り替える。
慌てて携帯をベッドに投げ飛ばした時には、窓辺の奏は消えていた。

「おー、ご飯できたんだ?」

「何回も声をかけたんだけど、電話中だった?」
「まあね。真由は簡単な用事は電話ですましちゃうから」

ドアを開けると、制服に黒のエプロンをしているちぐはぐな格好の奏が立っていた。

上手く誤魔化せたのかそれ以上追及もされなかったので胸をなでおろす。

「で、ご飯できた? ハンバーグ」
「うどん」

「え?」
「今日は天ぷらうどんだ!」

そういえば、油のにおいが階段を下りている今も強く感じる。

なるほど。天ぷらうどんか。

「へい、姉ちゃん。卵は生でいく? 温泉卵?」

キッチンでごぼ天やレンコン、鶏天を揚げている蒼人は、爽やかな汗を流している。
おバカだ。
なんとういお馬鹿さんなんだ。

「天ぷら多く作っちゃったから、奏くんもお父さんに持って帰ってあげてね」
「いつもありがとです。そうします」
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