先生、僕を誘拐してください。








放課後、各クラスの前にパイプ椅子が数個並べられる。
そして中で話をしている親子がちらちら見えた。

進学クラスの朝倉くんの教室を覗くと、彼がすでに話している。

ただ親ではなく綺麗な女性――?
お姉さんだろうか。

長い黒髪を反対側の手で耳にかける仕草がとても綺麗だった。
大人の女性。

こんなきれいな人が家族なら、同じ年のクラスの女子なんて興味持てなくて大学生の彼女がいてもおかしくないかもしれない。

スーツを着てはいるけれど、若くて似合ってなくて違和感があった。
あ、就職活動中に着るリクルートスーツみたいなのかも。

村田くんがお父さん同士が仲がいいって言ってたから、少なくても父親はいるはずなのになぜあの若い人なんだろ。

順番的に一番目のはずなのに、10分ぐらい待っても出てこなかった。

16時からのバイトまでには出てきてくれたら助かるのに。

見たくもない空を視界に入れながら、パイプ椅子に座って朝倉くんを待った。

あんな学校の有名人みたいな人が私を知っている理由。
わざわざバイト先まで覗きに来た理由。
奏を生徒会に推薦したのもあの人なんじゃないかなと邪推してしまう。

その目的は何だろうか。
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