先生、僕を誘拐してください。
蒼人がお母さんに怒られ、パックごと飲もうとしていた牛乳をプッと吐き出すのをみながら、席に戻る奏に言う。
「喋らないと、喋れないはちがうんだから。そんな私に喋らないから――」
本音が窓辺に現れるんだぞ、と言ってやりたい。
喋れなくなった分、本音さえも言えなくなった奏は、今、苦しくないのだろうか。
「なあ、奏、寿司ってあの押し寿司かなあ。俺、鯖の押し寿司も好きだけどいっぱい魚巻いてる巻きずしも好きっておやじさんに言っといて」
隣に蒼人が牛乳を持って座ると、奏は面倒くさそうに座る。
そして、私の方に蒼人はわざわざ向いて笑う。
「まだこいつ喋れないよ。すげー掠れてウケるもん。格好つけの奏じゃ、まだ、痛っ」
足を蹴られたのか、蒼人が下を見る。
その隙に牛乳を一気飲みして、顔を上げた時には蒼人の牛乳は何も無くなっていて、奏を睨みつける。