先生、僕を誘拐してください。
「美空」
 走り出した私は上品に靴を履き換えた後、お互いに走り出す。
奏たち一年の校舎は離れているので靴箱まで走って行く奏を残し、自転車に跨った。

跨った後に、奏が間に合わないと踏んだのか、Uターンして追いかけてくる。

「美空!」
「うるさい、馬鹿っ」

その時の私たちは、他の人たちから見てきっとおかしなものだっただろう。

あの坂は自転車に乗ったまま降りてはいけないのに、私はそのまま乗って降り、他の帰宅中の生徒たちをぎょっとさせてしまった。
その後ろを、上履きで駆け降りて追いかける奏。
私たちのその奇行は、目立っていたに違いない。
当の本人である私は、ブレーキをかけつつも坂を降りてから上手く右に曲がれるかの心配ばかりをしていた。


「美空! てめ、こら、まて!」

『先生の愛したカナリアは死にました』

同じ人物が発した言葉とはどうしても思えない。全然違う。
本音の奏の方が繊細で優しくて、良い奴だ。
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