先生、僕を誘拐してください。
家に転がるように帰った私は、速攻で鍵をかけチェーンをして二階の部屋へ閉じこもる。
お母さんが見えなかったけれど、台所に書き置きが置いてあるのが見えたので、きっと出かけているのだ。
まだ16時手前。夜でもない窓辺には本音の奏は現れない。
数分して、奏がうちの庭に自転車を投げだす様に降りて、一階の裏口へと回る。
迂闊だった。何年、うちと幼馴染みしてるんだ。
うちの親が居ない時は、もしものとき様に裏口のゴミ箱を退けた下に鍵を隠しているのを奏が知らないはずない。
鍵が回る音がして、そのまま階段を上がってくる、木が軋む音がする。
私の部屋は鍵がかかってるから入って来れないって分かってるのに、なんだか心臓が痛い。
ちくちく、ではない。ぎゅっと締めつけられる。
急いで自転車を漕いだ私たちは、まだお互い荒い息を吐きだしている。
「開けろよ、美空」
「いやだ」
「ぶっ壊すぞ」
窓辺に、もし本音の奏がいたら怖がって泣いてしまいそうな、唸るような声だ。
本音君が其処に居たら、聞いてみたい。
今、奏はどんな顔をして私の部屋の前に立っているのか。