『誰にも言うなよ?』
狼谷先生が立ち上がり背を向ける。


……ほんと、別人だ。

靴箱で会ったときとは。


曲がった背筋はピンとしているし、口調も声色も変わってしまう先生。


「お待たせ」


どこへ行ったのかと思ったら、絆創膏と消毒液を持って戻ってきた。


「ちょ……」

「じっとしてろ」

「保健室の先生でもないのに、生徒に治療していいの?」

「細かいことすんな。ただの応急手当だ」


そうはいっても

JKの生足をつかんでる絵図が、客観的にみてヤバい。


「大げさだよ……画鋲踏んだくらいでかまいすぎ」

「画鋲?」

「…………」


上靴に入ってたと言うべきか言わないべきか迷う。

言えばまた『報復してやろうか』なんてバカなことを言い出しかねない。


本気なのか冗談なのかはわからないけど、この人ならやりかねない。

無茶なことしそうだ。

なにせ、元暴走族……。


「そういや、さっき靴箱の方をチラチラ覗いてる二人組を見かけたな。おはようございますって声かけたら行っちまった」


まさか。


「……愛美と菜々ですか?」

「大正解」


やっぱりそうか。

おおかた仕掛けた罠にわたしが引っかかるかどうか、影から見ていたんだ。


痛がるとこ見られたのかな。

だとしたら、さぞ面白がっていたことだろう。


……悔しい。

どうしてわたしがあの二人を喜ばせなきゃならないの。
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