好きだから……
 京ちゃんがつけたあだ名はすっかり学年中に広がり、あたしたち3人が一緒にいると「3バカトリオ」と纏めて呼ばれるようになっている。

「京ちゃん、どうしたら頭がよくなると思う?」とあたしが質問すると、京ちゃんが渋い顔をした。
 まるで、原液のレモンの汁を誤って飲んでしまったときみたいな……そんな表情だ。

 渋い顔の後ろから、学年で「T3」と呼ばれている3人組が歩いてくるのが見えた。

「T3」とはT大に余裕で受かる実力をもっている3人組のこと。
 幼馴染の圭ちゃんと、本田総一郎くんと青田みどりさんの3人。

 天才3人組と、おバカトリオが廊下ですれ違う。

「あのなあ、土屋絢音! お前たちバカトリオの担任だからってなあ。俺もバカ担任だと思うなよ? 要は、元はデキるヤツだが、気を抜きすぎ。千里は……バカでも料理ができるから、将来安泰。絢音は……救いようのないただのバカ。努力しても結果に出ないんだからなあ、お手上げだ」
 圭ちゃんが、京ちゃんの横を通り過ぎていく。

『救いようのないただのバカ』と、圭ちゃんに聞かれた!!
 絶対に、聞かれた。

 通り過ぎざまに、青田さんの「ふっ」と漏れ出た失笑が耳に入ってきた。
 青田さんにも、馬鹿にされた。

「このタイミングで……京ちゃん、最悪だっつーの」とカナちゃんが、額をペチンと叩いた。

「ほんと。T3の真横で。わたしたちに対するイジメと受け取っても過言じゃないなあ」と、今度はちぃちゃんがフォローを入れてくれた。

「二人ともどうにかなる結果を京ちゃんに言われてるけど、あたしは……どうにもならないんだよ。落ち込む~」
「とか言って、すぐ立ち直るんだろ? 絢音は」

 うりうり~と京ちゃんが、あたしのこめかみをグリグリと拳で押してくる。
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