カノジョの彼の、冷めたキス



「あ、ここ座りな」

話が長くなり始めて、渡瀬くんが三宅さんに空いている隣のデスクの椅子を勧める。

お礼を言ってそこに座った三宅さんが、渡瀬くんに椅子を近付けて寄り添うように座る。

顔を寄せ合って話すふたりの姿を目の当たりにしたら、途端に胸が苦しくなった。


そんなに近付いて話し合う必要がある……?

嫉妬に燃える瞳でふたりの後ろ姿を見つめていたら、不意に後ろから肩を叩かれた。


「あれ?斉木さん、だいぶ前に帰らなかったっけ?」

振り向くと、いつもコンビを組んで仕事をしている原田先輩が首を傾げていた。


「はい。そうなんですけど……ポーチ忘れちゃって」

渡瀬くんと三宅さんを見つめていたことに気付かれなかっただろうか。

原田先輩に不審に思われないように、平静を装って笑ってみせる。


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