カノジョの彼の、冷めたキス
「残念、今日は急いでるからムリです」
「急いでるって、もう21時だけど?」
「知ってる。でも、これから人と飲みに行く約束してるから」
「約束?こんな時間から?」
「向こうも仕事終わりなので」
「ふーん。約束の相手って男?」
渡瀬くんが唇の端を引き上げながらからかうように訊ねてくる。
その顔つきから、あたしの約束の相手が男の人なんて絶対ありえないと思ってるのがわかった。
自分はモテるからって。
営業部で人気のある三宅さんからも気のある素振りを見せられてるからって。
あたしのことはバカにしてるんだ。
そう思ったら悔しかった。
あたしはそんな渡瀬くんのことが好きで、気になって気になって仕方ないから。だから、余計に……
「約束の相手が男の人だって言ったら?」
悔し紛れにそう言い返したら、渡瀬くんがあたしを見てにやにやとした。