カノジョの彼の、冷めたキス
今にもその場に崩折れそうなのを堪えて、なんとか洗面所まではと足を踏ん張る。
だけど、瞳に薄っすらと厚い膜を作る涙のほうはどうも堪えられそうになかった。
背中を見せている渡瀬くんには気付かれないように、胸に抱きしめていた着替えの服でそっと目元を押さえる。
でも、顔に近づけた着替えからほんのりと渡瀬くんの香りが漂ってきたから、拭った甲斐なくまた涙の膜で瞳が覆われてしまった。
困ったな、もう。
洗面所で顔も洗わなくちゃ。
もう一度着替えを目元にきつく押し付けたとき、ふわっと後ろに身体が揺れた。
ついに、足も踏ん張れなくなっちゃった。
だけどふと胸元を見たら、肩の後ろから回ってきた腕にぎゅっと抱きしめられていたから頭の中が真っ白になった。
「斉木さん、勝手に変な想像してるだろ?」
混乱しているあたしの耳元で、渡瀬くんが呆れたようにため息をつく。