カノジョの彼の、冷めたキス


エレベーターをじっと待ってなんていられない。

居ても立っても居られなくて、非常階段の扉を押し開けるとそのまま勢いよく駆け上がった。

1フロア上がっただけで息があがりかけたけど、皆藤さんと2人きりでいる渡瀬くんのことを考えたら、またすぐに足が動いた。

必死に走って7階に着く頃には、もう息切れ寸前だった。

最後の一段を上がろうとして足がふらつき、手摺につかまる。

態勢を整えながら深く息を吐いたとき、上のほうから男女の話し声がするような気がした。


「ほんとに今から部屋に行って大丈夫?」

息を殺して耳を澄ませたら、今度は女の人の甘えるような声がはっきりと聞こえてきた。


部屋に行くって、どういうこと……?

まさか、この階段の先で話しているのは渡瀬くんと皆藤さん……?

閉まりかけたエレベーターの扉の隙間から見えた、皆藤さんの綺麗な横顔を思い出す。

何の確信もないのにその声が皆藤さんのもののような気がして、冷や汗とともに嫌な予感で心臓がドクドク鳴った。

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