カノジョの彼の、冷めたキス


笑いかけながら、渡瀬くんが持ったままの仕事用カバンをおろせるように手を伸ばす。

けれど、彼のカバンはあたしがそれをつかむ前に玄関の床にポトンと落ちた。

カバンをつかもうとしていたあたしの手は、渡瀬くんの手につかまって、玄関の横の壁に背中から押し付けられる。


「じゃぁ、そうしようか、なんて。今の流れでそんなふうになると思う?」

渡瀬くんが挑戦的な目であたしを見下ろす。

鼓膜を擽る低い声に、胸がきゅーっと痛くなった。


「言ったよな。第一優先は穂花だって」

渡瀬くんが指を絡めるようにして、あたしの手を握る。

次に起きることに期待して目を閉じると、彼があたしの左目の上にそっと唇を押し付けた。

熱い吐息とともに耳や頬に押し当てられたそれが、最後にあたしの唇を塞ぐ。

少しずつ熱を帯びていく渡瀬くんの唇の温度を感じながら、繋がれた彼の手を強く握り返した。


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