カノジョの彼の、冷めたキス



戸惑い気味に視線を揺らすと、今度は渡瀬くんの唇があたしのそこに落ちてきた。

冷んやりとした感触に目を瞑ったあたしに、渡瀬くんがキスを繰り返す。

さっきは自分からひどく大胆な行動に出たくせに、逆の立場になると緊張で身体が強張る。

ドクドクと心臓を高鳴らせながら渡瀬くんのキスをおとなしく受け止めているうちに、少しずつ緊張がほぐれてきた。

キスが心地よくなってきた思い始めたとき、あたしの想いを読み取ったかのように、彼がそっと舌を絡め合わせてきた。


朦朧とそれを受け止めながら、意識の端で思う。

今の渡瀬くんのキスは、休憩スペースでの口止め料とは全然別物だ。

あたしに触れる渡瀬くんの唇は、いつのまにか熱を帯びていて。

キスの合間に髪を撫でるその手には、きちんと感情がのっているように思えた。
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